キミのキーケースにはいくつ鍵がある?

1年程付き合って、僕の方は結婚すら意識していた彼女に、突然フラれてしまってから半年が経つ。フラれた理由は、彼女に他に好きな人ができたから。僕の方になんの落ち度もない代わりに、僕の方ではもうどうしようもできない、決定的な理由だった。元々僕の方が、彼女が僕を思う気持ちより、多く彼女を好きだった。だから、彼女にそう言われてしまっては、返す言葉もなく、預けていた僕の部屋の鍵を黙って差し出す彼女から、受け取ることしかできなかった。

失恋の傷が少し癒えてきたと思った時、街で偶然彼女を見かけた。こんなドラマのようなことがあるのだろうか。彼女と一緒に居る、彼女より少し年上の男性は、僕も1度、仕事で関わったことがある人だった。でもその人は、仕事もできるし金もあるが、人間としては最低の奴だった。その男は、たいして親しくもなかった僕に、キミのキーケースにはいくつ鍵がある?と聞いて来て、自分のキーケースを見せてきたことがある。いかにも高級だと分かるそのキーケースには多くの鍵が収められていて、そのうちの1つは彼が経営する会社の鍵。1つは自宅の鍵。残りの多くの鍵は、付き合っている複数の、彼女たちの部屋の鍵だという。その鍵の多さがステータスだと、自分がいかに仕事が出来て金を持っていて、女にもてるかということを、得意げに僕に自慢してきたのだ。

まさか彼女が、あんな男にひっかかってしまったなんて。驚きと悔しさと、でも自分を振った女性が、振った原因の恋愛では幸せになれないということがわかり、ホッとする気持ちや同情する気持ちも芽生えた。複雑な感情が入り混じって、しかしはっきりと、やっと彼女への思いが断ち切れた瞬間でもあった。

間違いなく言えることは、そのろくでなしの男に言いたいことは、鍵を紛失してしまえ。もしくは鍵の本来の持ち主たちと一堂に会し、修羅場になってしまえ。ということだった。