携帯のロックは鍵屋じゃ外せませんよね(笑)

いつも利用している馴染みの定食屋に行くと、看板娘のおばちゃんが、今日はもう俺の好きな鯖の味噌煮定食はなくなったと教えてくれた。俺が鯖の味噌煮を頼むのは、鯖には脳にいいらしいDHAが含まれているからだ。それならしかたないと、肉じゃが定食を頼む。ここの肉じゃがは、煮込み過ぎておらず、ジャガイモもすっきりと原型をとどめており、煮汁も透き通っているのが好きだ。もちろん作り立てではなく、しっかり火も味も染み込んでいるから、どうやったらこのように食材のかたちを崩さずに綺麗な肉じゃがができるのか、知りたいくらいだ。

料理を待っている間、新聞を開いていると、座敷席でうたた寝していた男が目を覚まして周囲になにか話し出した。酔っているらしく、ロックがどうしたと話している。気になってそちらに目をやると、途中で隣のテーブルを掃除しているおばちゃんと目が合った。携帯のロックは鍵屋じゃ外せませんよねと笑っている。

それまでは、外食より自宅で弁当などを食べることが多かった俺が、この店に通うようになったきっかけは、たまたま休日にこの店の前を通りかかった際に、このおばちゃんを助けたことにある。お店を開けたいのに鍵が壊れ、裏の出入り口から店に入れないとおばちゃんが困っていたのだ。鍵屋をしている俺にとって、古い定食屋の勝手口の鍵なんて、愛用の工具がなくても簡単に開けることができたから、そのお礼にと肉じゃが定食をご馳走になったのが始まりだ。

なるほど件の男は、携帯のロック番号を忘れてしまい、使えないと嘆いているのだ。鍵のトラブルで困っている人は仕事柄よく接しているが、携帯のロックでも困る人がいるのかと、かつて同じことで困っていた故郷の両親のことを思い出したりした。ふっと思い立ち、その男に届く声で「試しに〇〇〇〇っていれてみなよ」と声をかけてみた。しばらくして「開いた」という声。初期値番号だ。おばちゃんが驚いた顔をした。